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【進撃の巨人】壁・エルディア人・地ならしの史実元ネタを完全解説——ゲットー・ホロコースト・民族迫害との構造的対応

「壁の中に閉じ込められた民族」は、20世紀に実際に存在した。

1940年、ナチスドイツはポーランドのワルシャワに高さ3メートルの壁を建設し、約45万人のユダヤ人をその内側に閉じ込めた。壁の外の人間は彼らを「壁の中の者たち」と呼び、食料の流通を制限し、徐々に死に追いやった。この「ワルシャワ・ゲットー」は進撃の巨人の壁の設定と重なる部分が多い。

エルディア人が「悪魔の民族」として世界から迫害され、パラディ島という「壁の中」に押し込まれた歴史。マーレ人によって「劣等民族」として管理される収容区。これらの設定は、諌山創氏が20世紀の歴史——ユダヤ人迫害・植民地支配・民族浄化——から意識的に引き出した構造だ。本記事では、進撃の巨人に埋め込まれた史実・歴史的構造の元ネタを徹底的に読み解く。

本記事はアニメ本編・最終章のネタバレを含みます。視聴済みの方を対象としています。

目次

なぜ『進撃の巨人』の世界観はここまでリアルに感じるのか

諌山創氏は複数のインタビューで、作品の設定に現実の歴史を参照したことを示唆している。「壁・迫害・収容・民族」というキーワードは、20世紀の歴史を少しでも知っている人間が見れば、架空の設定として片付けられないリアリティを持っている。

重要なのは、進撃の巨人が「どちらが正しいか」を決めない作品だという点だ。エルディア人もマーレ人も、加害者でありながら被害者でもある。この構造は歴史の実際の姿——加害と被害が繰り返し入れ替わる民族間の憎悪の連鎖——と一致している。

【壁と隔離】「壁の中に閉じ込める」という支配の歴史

ワルシャワ・ゲットー——壁で閉じ込められた45万人
進撃の巨人の「壁」の元ネタとなった、ナチスドイツがユダヤ人を隔離するために建設したワルシャワ・ゲットーの実際の壁の写真
画像出典:『ユダヤ人居住区を隔離する壁の建設』/ Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

史実との対応:1940年〜1943年、ナチスドイツがポーランドに設置した強制居住区

1940年11月、ナチスドイツはワルシャワの一角に3.4キロメートルにわたる壁を建設し、約45万人のユダヤ人をその内側に封じ込めた。壁の外との食料・物資の流通は厳しく制限され、ゲットー内では飢餓と疫病が蔓延した。壁の中の人間は「壁の外の世界を知らない子供たち」を多く含んでいた。

作中のパラディ島の壁とこの構造は重なる。「壁の外に何があるか知らない」まま育ったエレンたちの状況、壁を越えようとする者が殺される理不尽、そして「壁の中にいれば安全だ」という支配者の論理——これらはゲットーという歴史的な隔離政策の構造そのものだ。

ベルリンの壁——「壁」が持つ政治的・心理的意味

史実との対応:1961年〜1989年、東西ドイツを分断した壁

1961年、東ドイツは西ベルリンを囲む形で突如として壁の建設を始めた。一夜にして家族が引き裂かれ、壁を越えようとした人間は射殺された。壁が崩壊する1989年まで、約140人が越境を試みて命を落とした。

「壁」という構造物が持つ意味——自由の剥奪、知ることの禁止、越えようとする者への暴力——は、ベルリンの壁とパラディ島の壁で共通している。エレンが「壁の外の世界を見たい」という衝動を持つことの意味は、壁の歴史を知ることで深く読める。壁を越えることへの欲求は、単なる冒険心ではなく「自由への本能的な渇望」として人類の歴史に繰り返し現れてきた。

【エルディア人とマーレ人】民族迫害の歴史的構造

「悪魔の民族」という烙印——反ユダヤ主義との構造的対応
マーレのエルディア人の腕章の歴史的元ネタである、ナチスドイツがユダヤ人に着用を強制した「黄色い星」のバッジ
画像出典:『ナチス時代のバッジ「このサインを着ている者は国民の敵である」』/ Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

史実との対応:中世から続くユダヤ人差別と「悪魔と契約した民族」という偏見

中世ヨーロッパでは、ユダヤ人は「悪魔と契約した民族」「キリストを殺した民族」として迫害された。黄色い星のバッジの着用を強制され、居住区を制限され、職業を限定された。この差別は宗教的な偏見から始まり、19世紀には「劣等人種」という擬似科学的な理論によって強化された。

作中でエルディア人が「始祖ユミルが悪魔と契約して得た力を持つ民族」として世界から忌み嫌われる設定は、この歴史的な「悪魔との契約」という烙印の構造と重なる。腕章の着用を強制されるマーレの収容区のエルディア人は、黄色い星のバッジを強制されたユダヤ人の直接的な対応として読める。

加害者と被害者の入れ替わり——植民地支配の「連鎖」

史実との対応:かつての被支配民族が支配者になるという歴史の繰り返し

進撃の巨人の最大の特徴は「かつて加害者だったエルディア人が今は被害者であり、かつて被害者だったマーレ人が今は加害者だ」という構造だ。これは歴史の実際の姿だ。

オスマン帝国に支配されていたバルカン半島の民族が独立後に互いに殺し合ったユーゴスラビア紛争、植民地支配を受けたアフリカ諸国が独立後に別の民族を弾圧した歴史——被害者が加害者になるという構造は20世紀の歴史に繰り返し現れる。「エルディア人もマーレ人も、どちらが正しいとは言えない」という進撃の巨人の結論は、この歴史的な現実への誠実な応答だ。

【巨人という存在】「人間を人間でなくする」技術の歴史

純粋巨人——「非人間化」という支配の技術
進撃の巨人の無垢の巨人(純粋巨人)の恐怖を視覚的に体現している、ゴヤの古典絵画『我が子を食らうサトゥルヌス』
画像出典:『ヒエロニムス・ボス 七つの大罪』/ Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

史実との対応:プロパガンダによる「敵の非人間化」という歴史的手法

戦争や虐殺の歴史において、支配者は必ず「敵を人間でないものとして描く」というプロパガンダを使う。ナチスドイツはユダヤ人をネズミや害虫として描いたポスターを大量に作成した。ルワンダ虐殺ではラジオ放送が特定民族を「ゴキブリ」と呼び、殺害を促した。「あれは人間ではない」という意識を植え付けることで、普通の人間が虐殺に加担できるようになる。

作中の純粋巨人——知性を失い、ただ人間を食べ続ける存在——は、エルディア人を薬物によって変えたものだ。「人間を怪物に変える技術」が支配の道具として使われるという設定は、「人間を非人間として扱う」という歴史的な支配の技術の直接的な反映だ。巨人に食べられることへの恐怖は、「かつて人間だったものに殺される」という恐怖でもある。

戦士と兵士——子供を戦争に使う歴史

史実との対応:少年兵・子供を使った戦争の歴史

マーレがエルディア人の子供を「戦士」として選抜し、巨人化能力を持つ兵器として使う設定は、20世紀に各地で行われた少年兵の動員と重なる。第二次世界大戦のナチスドイツ「ヒトラーユーゲント」、現代のアフリカ各地の武装勢力による子供の強制徴兵——子供を「国家や組織のための道具」として使う構造は歴史に繰り返し現れる。

ライナーやベルトルトが「故郷のために」壁を破壊した動機の複雑さは、「洗脳された少年兵が本当に信じていたものは何だったのか」という問いと重なる。彼らは悪人ではなく、システムに使われた子供だった。その理解は歴史の文脈を知ることで深まる。

【地ならし】大量虐殺の論理——「最終解決」との対応

エレンの「地ならし」——「最終解決(Endlösung)」という歴史的概念

史実との対応:ナチスドイツが使った「最終解決」という虐殺の婉曲表現

ナチスドイツはユダヤ人の絶滅計画を「最終解決(Endlösung der Judenfrage)」と呼んだ。「問題を完全に解決する」という婉曲的な表現の下に、600万人の虐殺が行われた。「問題を根本から消す」という論理は、感情的な憎悪ではなく「合理的な解決策」として提示されたという点が最も恐ろしい。

エレンの「地ならし」——島の外の全人類を巨人で踏み潰すという計画——は、この「最終解決」の論理と構造が一致する。「エルディア人が永遠に迫害されないためには、脅威を完全に消すしかない」という論理は、感情的な怒りから来ているのではなく「問題の根本的な解決」として提示される。エレンが「悪魔」なのか「英雄」なのかという問いは、「最終解決を実行した者は悪魔か、それとも自民族を守ろうとした者か」という歴史が問い続けてきた問いと同じだ。

これを知った上でもう一度見ると

ワルシャワ・ゲットーの歴史を知ると、壁の中で「壁の外を知らない」まま育った子供たちの描写が全く違う重みを持つ。あれは実際に起きたことだ。

腕章を強制されるマーレのエルディア人の場面は、黄色い星のバッジを強制されたユダヤ人の映像と重ねた時に初めてその設計の意図が見えてくる。ライナーたちが「故郷のために壁を破壊した」動機の複雑さは、洗脳された少年兵が抱えていた信念の歴史的な記録と重なる。

そしてエレンの「地ならし」が「正しいか間違っているか」という問いに答えが出ない理由は、「最終解決」という歴史的な行為に対して人類がいまだに明確な答えを出せていないからだ。進撃の巨人はその問いを、架空の島の物語として再演した。それがこの作品が世界中で語り継がれる理由だ。

【原作・関連書籍】

原作漫画は全34巻で完結済み。アニメではカットされたエレンの心理描写や、伏線の回収が文字と絵でより細かく描かれている。「地ならし」の決断に至るまでの内面を、原作でもう一度追い直す読者が多い作品だ。

まとめ

ワルシャワ・ゲットーは実際に建設された。腕章の強制は実際に行われた。「最終解決」という言葉は実際に使われた。少年兵は今も世界各地に存在する。

進撃の巨人は「どちらが正しいとは言えない」という結論のために、20世紀の民族迫害・虐殺・支配という現実の歴史を全部使って世界を作った。エレンの選択が正しかったかどうかという問いに答えが出ないのは、歴史が同じ問いにいまだ答えを出せていないからだ。それがこの作品の核心だ。

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